落語の言語空間

[Last up date: 06/09/10]
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落語の言語空間

はじめに

以前、落語を分析した際に、落語の重要な 要素として観客への話しかけ(交流)があることを指摘した。

野村雅昭の『落語の言語学』*1 に、この落語家と観客との関係を表記するのに便利な述語が述べられていたので 抜粋して紹介しよう。

落語の発話構造

野村は落語を、まず談話として捉え、談話理論のネットワークの観点から、 送り手(P)と受け手(Q)、会話の中に登場する人物であるオクリテ(x)とウケテ(y) との関係から、落語の発話を以下の3種に分類した。

演者Pの聴衆Qに対する発話 P→Q
独白
登場人物xの発話 P(x)→Q
対話
登場人物xのyに対する発話 P(x→y)→Q

野村は、このP→Qとx→yの二重構造が落語の特徴であると断じ、ここから各 発話において用いられる言語(口語、古語、文語等)の分類へ進むのだが、この先 は私の意図するところではないので省略する。

「交流」の表現

私の指摘した「交流」は、野村の分類の「地」のうち、内容が演劇的要素を 持たない範囲を指すものであるが、内容ではなく人物で表記するなら、 演劇的仮面を被らない状態の送り手からの発話であると言うこともできる。

そこで演劇的仮面を被る/被らない状態を添字のpとuで表わすと以下のように 表記することが可能である。

交流
素の落語家Pの聴衆Qに対する発話 Pu→Q
演者Pの聴衆Qに対する発話 Pp→Q
独白
登場人物xの発話 Pp(x)→Q
対話
登場人物xのyに対する発話 Pp(x→y)→Q

あるいは「地」の表記については、地では演者がナレーターを演じているわ けなので、 Pp(n)→Q (nはナレーターの意)と表記したほうが良 いのかもしれない。

まとめ

これだけでは特に何を語るわけでもないが、この表記法のルールを使うと、 例えば、立川談笑が良く使う、「登場人物を演じる役者」が素に戻って観客に話 すところを演じるギャグについて

Pp(xu→Q)→Q

というふうに三重に二重化された構造であることが説明できたりするのであ る。

この野村の表記法を改良したものを、ひとつの梃子(てこ)として今後の議論 を進めてみたいと考えている。

(2003-05-05)

*1 ,野村雅昭,『落語の言語学』,平凡社ライブラリー,平凡社,2002


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