「ご隠居!ご隠居!」
「なんだいハチ、にぎやかに。上野で花見でもしてきたかい。」
「上野の桜はもう散り際ですぜ、ご隠居。
ちょいと小耳にはさんだ話なんですがね、横須賀の方で流行ってる新しい遊び、ご存知ですかい?」
「いや、聞いたことは無いが、それはどんな遊びだい?」
「ほれ、あの伊豆の修善寺から山へ抜ける古い街道沿いに、山桜の名所がいくつもありやすでしょ。
おれっちもよく見にいくっていってたアレですよ。
山桜は、ほれ、咲くのが遅いから、ぼちぼち、花盛りになってるんで。
で、横須賀の連中ってのは、それを見物に行くのが年中行事だってんですが、
たーだ見ても面白くないってんで、最近は、ねぶたのはねとか、阿波踊りかってくらいに、
連を組んで踊り練り歩きながら見るんでさあ。」
「ほう、それはにぎやかなことで。」
「そうなんですよ。それで掛け声が「コーゾーカーイカーク」とか「ユーセーミーンユーカー」とかいって踊ってるそうなんですよ。ご隠居、これどういう意味なんですかねい。」
「うーん、わけは判らないが、痛みを耐えてるような唸り声だな。」
「そんなもんですかねい。それで、やつらタチの悪くて、
「ぶっこわす」とか叫んで山桜を散らしながら練りあるいてるんで、
早く行かないと、今年の山桜は見られなくなっちまうんで。
てなわけで、これからちょいっと伊豆まで行って山桜みがてら騒ぎを見物してきますんでっ。」
「あ、ハチー、おまいさん気がみじかいんだから、騒ぎを大きくするんじゃないよー。 って行っちまったか。やれやれ。」
てなわけで、ハチが見物に行ったこの伊豆の練り歩き騒ぎの連中、
そのまま山桜の盛りを追って秩父まで行進しまして、
そこで自由民権運動の引き金となり、
後の自由党、現在の自由民主党の祖となったという、
古い伊豆の街道で桜を散らして踊った連、略して古伊豆道散る踊り連の一席の縁起でございました。